ラムゼイヤー&ローゼンブルース(1993)

Japan's Political Marketplace

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日本政治の経済学―政権政党の合理的選択

日本政治の経済学―政権政党の合理的選択

再読。文化論や官僚支配論で語られがちだった日本政治を、合理的選択論のプリンシパル−エージェント理論を用いて体系的に説明しようとした名著。具体的には、日本政治は有権者→政治家→官僚(→裁判官)という主人(プリンシパル)−代理人(エージェント)の連鎖からなっており、日本政治の特徴とされた自民党の派閥構造や官僚の役割の大きさは中選挙区制や議員内閣制という政治制度に制約されたアクターの合理的な行動によって十分説明できるとしている。派閥についていえば、中選挙区制下で政権党が過半数を取ろうとすれば票割が必要となり、派閥はそれを円滑に促進するものである。一見、「官僚支配」とみえる状況は、実は官僚が「主人」である自民党政治家の選好をあらかじめ織り込んで法案作成や執行を行っているため、あえて政治家自らが法案を書く必要がないという関係を表してるにすぎないとしている。そして、政権党と官僚の企図の一致を前提とすれば、政治家があえてリスクを犯して司法の独立を認め、それに「警報装置」の役(法律の憲法判断など)をゆだねる必要はなく、事実、自民党最高裁事務局の人事権を介して自らの選好に反する判決を下す判事を人事で冷遇することで司法をコントロールしてきたと論じている。
いまでは常識となっている中選挙区制という政治制度と派閥や族議員の関係を合理的選択制度論の観点から初めて論じた*1というのはすごい。族議員の出現を「政党優位の現われではなく、むしろ逆で、都市中間層向けの政策と自民党陣笠議員の選好の乖離が官僚機構への介入を生んだ」とする議論など、実証面で難点が多いとは思うが、日本政治研究のブレークスルーとなった名著なのだと思う。おそらくラムゼイヤーが書いたと思われる日本の司法制度を描いた部分が、「試論に過ぎない」と随所で断っている割には実証的に緻密だ。そして、結論部で中選挙区制度から小選挙区比例代表制度への選挙制度の変更が生み出すであろう変化を予測している部分は、選挙制度改革以降の、とりわけ現在の小泉政権下で起こっている変化を驚くほど的確に予言してい、プリンシパル−エージェント理論の説明能力の高さを立証しているように思われる。
アメリカで政治学を勉強していると「日本は特殊だから・・・」という話を何度となく聞かされるので、この本のように「特殊なのは制度であって、そこに住む人間は同じ」という議論を読むと変に納得したくなる気になります。

*1:のだと思う。定かでない。