上川龍之進(2005)『経済政策の政治学:90年代経済危機をもたらした「制度配置」の解明』
経済政策の政治学―90年代経済危機をもたらした「制度配置」の解明
- 作者: 上川龍之進
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2005/09
- メディア: 単行本
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[コメント]
・本書の前半部分では、従来低いとされてきた日本銀行の独立性が実は高かったことが事例研究から示される。しかし、「独立性の高い中央銀行が高い経済パフォーマンスをもたらす」という議論の背景には経済学の合理的期待形成理論があり、事実として中央銀行の独立性が高い・低いという問題よりも、経済主体が中央銀行の政治的圧力からの独立性をどの程度だと評価しているのかが重要となる。だからこそ、先行研究は中央銀行の独立性を法制度や専門家による評価によって指標化していたのではなかったか。本書では、事例研究から日銀が相当程度の独立性を発揮した逸話が繰り返し明らかにされるが、経済主体(企業や労働組合)がその独立性をどのように認識していたのかの論証は少ない。むしろ、その点は「日銀の金融政策の独立性は低い」ということが「通説」であった点が重要ではないだろうか。
・バブル発生のメカニズムを明らかにする部分で、本書は独立した日銀の判断で金融緩和が続けられ、それがバブルを膨張させたと主張しているが、もしそうであればバブルを議論する際に中央銀行の独立性を議論する意義は薄れるのではないか。実際、独立性が高いとされるアメリカの連邦準備理事会もバブルの発生を防げなかったことが示唆されており(第三章脚注196)、独立性の低い中央銀行のほうがバブルを防げるとも言えないだろうから(スカンディナヴィア諸国の例を想起せよ)、中央銀行の独立性とバブル経済とを結びつける議論には無理があるのではないか。