Obinger, Leibfried, and Castles (2005)

Federalism and the Welfare State: New World and European Experiences

Federalism and the Welfare State: New World and European Experiences

[問題設定]福祉国家の計量分析では連邦制をダミー変数や、インデックスに単純化して回帰式に投入する結果、連邦制は福祉国家の拡大の障壁となることが通説となっている。しかし、連邦制と一口にいっても実態はさまざまであり、一様ではない。では、連邦制は福祉国家の発展期("old politics")と削減期("new politics")とでどのように作用するのであろうか。
[方法]連邦制をとる六つの国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、オーストリア、スイス)を事例としたケーススタディ
[議論]ケーススタディの結果、通説の通り、連邦制は福祉国家の発展期にはそれを抑制する働きをするといえる。しかし、連邦制をとる国の中でも、連邦制導入以前に非民主主義体制のもと社会保険制度を整備した国々(ドイツ・オーストリア)では連邦制を採用し民主主義体制となった戦後の福祉国家発展期において福祉国家は拡大できた。それは、社会保険制度が連邦制をバイパスしたからである。一方、連邦制を先に確立し、その後に福祉国家体制の整備を図った民主主義国家では福祉国家の拡大は抑制された。
一方、福祉国家の削減期("silver age")では、拒否点が多く政策変更が難しいという特徴を持ちやすい連邦制国家では、社会保障支出の削減が難しいといえる。連邦政府・地方政府の選挙の機会が多い上、社会保障政策に利益を得ている地方政府が削減を阻止しやすいからである。
結論としては、連邦制の内実はさまざまである以上、単にダミー変数とするのではなく、それぞれの国のプロセスを仔細に追う以外ないのである。
[論点]

  • 結局、通説の域はでていない。
  • セレクションバイアス。論文集なので仕方ないかもしれないが、「連邦制かどうかが福祉国家に影響を与えるかを問うことに意味があるのか」を問題としていながら、連邦制の国だけをケースとして選ぶことで説明変数の幅を狭くしている。それゆえ、「連邦制といっても様々で、福祉国家の与える影響はいろいろだ」という結論がでるのはやる前から出てしまっている。
  • 日本で中央-地方の政府間関係が福祉国家に与える影響を調べている研究はほとんどないのではないか。政治・行政学における地方自治研究は層が厚いが、福祉国家研究につながっていないような気がする。(間違っていたら誰か教えてください)