Jacob Hacker (2002)

The Divided Welfare State: The Battle over Public and Private Social Benefits in the United States

The Divided Welfare State: The Battle over Public and Private Social Benefits in the United States

[問題設定]アメリカ合衆国社会保障支出の対GDP比が他の先進諸国に比べて著しく低い。なぜか。
[議論]アメリカの福祉国家を考えるとき、既存の福祉国家研究のように公的社会保障支出のみを研究対象としていては、アメリ福祉国家の真の特徴を捉えられない。企業年金や民間健康保険に対する税優遇措置などの租税支出を考慮に入れれば、公的・私的福祉プログラムに対する社会的支出は他の先進諸国と遜色がない。つまり、大規模な公的福祉プログラムではなく、税優遇措置や規制を通じて育成・統制された民間福祉プログラムが社会的保護の供給に他の先進福祉国家に比べて極めて大きな役割を果たしている点がアメリカの福祉「レジーム」の大きな特徴なのである。
では、そのような特徴を持つようになったのはなぜか。一つは、拒否点の多い政治制度のため。政治制度の特徴が論争的で公衆の目を集めやすい規模の大きな公的プログラムの成立を阻んだ一方、同じ制度が、公衆の目に付きにくく、一度形成されると雪だるま式に拡大しやすい税優遇措置を通じて、民間福祉プログラムの発展を促した。ただし、政策領域間の違いも見逃してはならない。ニューディールに成立した Social Security(公的年金制度)が企業年金をそれに対する補完的なものとした一方、公的健康保険がニューディールに成立しなかったことが企業健康保険を医療保険の中心的制度とし、公的プログラムはメディケアやメディケイドなど私的保険ではカバーされにくい層に対する限定された制度として展開することにつながった。 すなわち、歴史的分岐点(critical juncture)において形成された政策の違いが経路依存性を働かせ、その後の政策展開を規定したのである。
[方法]アメリカ合衆国における年金制度と健康保健制度の公的・私的プログラムの政策史の比較。
[論点]

  • 理論は歴史的新制度論。特に、この本のもととなった著者の博士論文の指導教官の一人がポール・ピアソンなこともあって、経路依存性が重要な役割。福祉国家論の先行研究への目配せはスゴイ。
  • 日本でも、企業福祉に対する政策展開を追った研究がはやる予感。