ブラウンバッグ・セミナー

うちの学部では主に教授陣(ときどき博士論文執筆中の院生)のワーキングペーパーやその手前のアイデア段階のプロジェクトをお昼の時間に発表し、皆でそれを批判したりアイデアを出し合うというセミナーがときどき開かれます。お昼どきにランチを入れた袋を持ち寄って参加することからか、「ブラウンバッグセミナー」と呼ばれています。学部内での研究交流が進展する、とてもよい制度ですよね。
今日はそのセミナーで、アメリカの最高裁を専門とする教授が、ロシアの劇場テロ(とロシア政府による人質無視の突入作戦)の被害者の政治意識を調べるサーベイの質問票に関する報告がありました。調査のためのファンドを得られたらしいのですが、候補がありすぎて何を被説明変数にするかも決まっていない段階でしたが、皆であーでもないこーでもないと質問項目について議論していました。去年のデータ分析入門の先生だけあって、サーベイをして統計分析にかけるつもりのようですが、僕にはどうもしっくりきませんでした。なんだか、質問項目が抽象的な概念を捉えられているかどうかという点にばかり注意が向いていて、犠牲者やその家族が事件をどのように捉え、どのように変わったのか理解しようとする姿勢に欠けるように感じたからです。その先生が注目している事象は、事前の調査結果から被害者や家族が政治から疎外されていると感じていれば感じるほど、事件後に起こされた政府相手の裁判に参加しようとする傾向があることです。授業でもデータを見せられたわけですが、実際に裁判に参加したのは30人ほどなので「四の五の言わずに、まず通訳つきでもなんでもいいから話を何度か聞いてみればみればよいのに」と思ってしまうわけです。いま勉強している計量分析は大変有効な分析ツールだと思いますが、分析に使えるデータにする段階で捨象してしまう部分は大きいはずです。例えば、政治からの疎外感などは微妙なニュアンスを聞き取らないと本当のところは分からないでしょうけど、サーベイデータだと「五段階で評価してください」になってしまいます。サーベイを行うようなきちんとオーガナイズされた研究じゃないとファンドを取れないんでしょうけど、「なんだかなぁ」と思ってしまいました。
佐藤郁哉先生が「政治学や○○学にありがちなワンショットサーベイ」といっていたのはこういうことなんでしょうかね。