Samaritan's Dilemma (2005)

The Samaritan's Dilemma: The Political Economy of Development Aid

The Samaritan's Dilemma: The Political Economy of Development Aid

今日で一応「政策決定過程論」の通常授業は終了。来週は本日提出したタームペーパーのプレゼンがあるのみ。コロラド大学デンバー校から自分の論文を読んでディスカッサントをつとめてくれる先生が来るらしいので、今から緊張です。
で、先週、今週と読んでいたのがこの本。スウェーデンの対外援助機関でSidaの以来でSidaのプロジェクトを分析した報告書を基にした本です。分析枠組みとしてはInstitutional Analysis and Development(IAD)を用い、国内官僚組織、ドナー国(スウェーデン)、援助受入国、受入国で援助プロジェクトに携わるコンサルタントといった様々なアクターのインセンティブ・ストラクチャーを現場レベルと集団意思決定レベルに分け、ゲーム理論を用いて分析した理論編と、実際のインドとザンビアのSidaの援助プロジェクトを分析した実証編からなります。
キーワードは"ownership"と"sustainability"。タイトルの「サマリタンのジレンマ」は、アクターの一人が完全に利他的で、もう一人が利己的なゲームモデルで、戦略的な計算の結果このゲームは利他的なサマリタンが援助を行い、ゲームのインセンティブ構造からレシピエントは努力を差し控えるというもの。この例が示すように、対外援助では理念や善意はレシピントの発展にとって十分ではなく、むしろ時に自国の発展をすすめる努力を抑制する結果をもたらし、持続可能な発展のためには従来の援助方式は適切ではないことをこの本は明らかにしています。対外援助においても、支援国の援助組織やコンサルタント、受入国の現場や政府機関は、それぞれプリンシパル・エージェント問題や集合行為問題などに直面しており、援助が「持続可能な発展」に寄与できるかどうかはそれぞれのレベルでの制度のありかたにかかっているということです。しかも、制度はそれぞれのアクターのインセンティブを構成する、と同時にそれに拘束もされている、という内生的な関係にあり、制度改革は容易ではないのです。
日本の外務省やJAICAなど援助関係組織の人々には是非読んでもらいたい本ですね。