最近読んで面白かった論文

Cusack, T. R., Iversen, T., & Soskice, D. (2007). Economic Interests and the Origins of Electoral Systems. American Political Science Review, 101(3), 373-391.
[問題設定]
20世紀の初頭、先進工業諸国では普通選挙制が実施され、階級・宗教・エスニシティといった分断線に沿って政党システムが「凍結」したとされる。しかし、面白いことに、この政党システムを形成する選挙制度(PR*1とSMD*2)と生産レジームのタイプ(VOC)との間には強い相関関係がみられる。なぜか。
[議論]
スタイン・ロッカンやカール・ボイッシュは、労働運動が興隆したこの時期に、宗教やエスニシティといった要素で中道・右派勢力がバラバラであった国は左派による支配を防ぐためPRを採用し、中道・右派勢力が結集できた国はSMDを維持したと主張した。しかし、このような理由であれば、決選投票制や単記移譲式投票制を採用するばよいだけの話である上、歴史をみれば第一次大戦直後のドイツのように、左派がPRの採用に動いた事例も多い。つまり、歴史的にも、論理的にも通説は辻褄が合わないのである。
本稿は通説とは異なり、資本主義生産システムのあり方から選挙制度の成立を説明する。時間的には生産レジームの成立が選挙制度に先行する。すなわち、ギルド制の遺制を持ち、産別組合組織が成立し、経営者団体が組織化されていた国は、集合行為問題を解決して労使双方の「共同資産」である特化型技能の供給を行うために、労使の利益が代表される政治システムを必要とした。PRは、権力資源動員論が主張したように再分配の面では「排除の論理」を取る最小勝利連合政権型の政治システムを生むが、規制政策の面ではコーポラティズム論やコンセンサス民主主義論が主張したように「包括の論理」を取る政治システムを生む。もし、この労使双方の利益表出をPRが保障し、その利益が再分配の不利益を補って余りあるならば、支配層はPRを選択する(再分配が労働者の技能へ投資の保険となって間接的に経営者側を利する側面も忘れてはならない)。他方、クラフト型労働組合が組織され、労働組合が技能供給をコントロールしようとし、経営者側も機械化で対抗するというような戦闘的な労使関係が支配的となった国では、特化型技能に依拠しない生産レジームが形成され、政治システムにおける労使双方の利害表出に支配層は利益を見出さないため、再分配を防ぐためにSMDが採用された。それゆえ、生産レジームと政治システムとの間には補完関係がみられるのである。
[実証]
比較歴史分析のメタアナリシスと、クロスセクションデータによる回帰分析。
[コメント]

  • 議論に説得力はあるが、やはり機能主義的。本当に労使双方の利益が代表されるシステムを作るために選挙制度を選択したのか、戦間期の制度選択における政治家や経営者団体の思惑など歴史史料によるケーススタディが欲しいところ。クロスセクションで生産レジームが戦間期における選挙制度選択と高い相関を持つことが示されても、因果関係とはまた別の話でしょう。