ESPAnet ワークショップ@ボローニャ大学

ボーローニャ近郊のフォーリというところで開かれたワークショップに参加してきました。テーマは"THE POLITICS OF RECALIBRATION: WELFARE REFORMS IN THE WIDER EUROPE"ということで、アントン・ヘメリックが提唱している"welfare recalibration (福祉再測定?)"をキーワードに、EUレヴェルや各国レベル、地域レヴェルでの福祉改革や労働市場改革について研究している大学院生16人と第一線の教授陣とが集まって、三日間、研究発表をするというイヴェントです。EUIからはフランカ先生と東欧の年金改革を研究している四年生と自分の三人が参加しました。

写真は"Dutch Miracle"で著名なアントン・ヘメリック教授です。オランダの政策アドヴァイザーを現在務めている関係で忙しいにもかかわらず、三日間全て参加し、全体のセッションとテーマ別パネルの全てで鋭いコメントを連発していました。いかにも「切れ者」という感じの人です。

写真はフランカ先生とイタリアの年金改革の分野で著名なダヴィード・ナターリ氏。フランカ先生はイタリアにおける移民と介護サービスを研究しているのですが、ワークショップの閉会式で「移民政策と福祉政策の連関など、まだまだ研究の足りない未開の沃野がある」と取り上げられていました。

写真はホイザーマン氏で、スイスの大学で研究員をされている博士号取りたての女性です。てっきり男性だと思っていたのですが、素敵な女性でした。そして、知らずに自分の論文で引用していました。彼女の博士論文はインタビューや文献資料・議事録などから自分で集めた資料をつかってヨーロッパ四カ国30年に渡ってアクターの政策選好をマッピングし、因子分析を使って福祉改革をめぐるアクターの合従連衡を分析するというものです。ランチの時に「どのぐらいインタビューしたんですか?」と聞いたところ、「インタビューはたいしたことなくて、一カ国につき20人ぐらいかな」と言っていました。スゴイ。。。スイスは多言語社会なので、ヨーロッパの比較研究という点ではアドヴァンテージがあるのかもしれません。


自分はジュリアーノ・ボノーリ教授の公的保育サービス支出の計量分析に関する論文の討論者と、「古い社会的リスクに対応した社会政策から新しい社会的リスクに対応した社会政策へのシフトを規定している要因は何か」というテーマで書いた論文の発表をやりました。討論者のほうでは、時系列クロスセクションデータの分析方法にかなり問題があったので、問題点を列挙し、その解決方法を示唆し、その方法をつかってデータを再分析した結果を示したところちょっと場内が騒然。ヨーロッパの社会政策研究者もあまり計量分析が得意ではないので、驚いたようです。ボノーリ教授は批判を好意的に受け止めてくれたので、今回の討論者の仕事で名前を売ることができました。日本での職探しには役に立ちませんが・・・。
自分のペーパーのほうはというと、ボノーリ教授が2007年に Comparative Political Studies に発表した論文を批判的に検討したものだったのですが、討論者を務めてくれたボノーリ教授がこちらも「批判というよりも自分の研究を補完してくれている」と好意的に受け止めてくれました。そして、いくつか有益な助言をボノーリ教授とフロアから頂くことができたので、今回のワークショップに参加して得るものは大きかったように感じます。

夜はレストランで会食し、その後バーで飲んでいましたが、イタリアの教授がたどたどしい英語でひたすら喋り捲るので帰れず、結局三時までひっぱられてしまいました。そこでアントニオ(写真右、スペイン系のドイツ人)に言われたのが、「タケーシのプレゼンテーションは、内容に全く問題はないのに、センテンスの最後の二、三語で失速するので一番大事なところが聞き取れない。ジョークとか面白いこといってるのにもったいないよ。」と繰り返し三度ほど言われてしまいました。なんででしょうね?日本語は最後が一番大事だけど、たしかに強調しないかもしれません。その日本語訛りが英語に反映しているのかも。まだまだ精進が足りないようです。

最後に雑駁な感想を少し。

  • (特にドイツの)年金を研究している研究者多すぎ。これだけ研究者が多いと何か新しいことを言うのは大変だろうに。。。
  • ヨーロッパの大学院も日本の社会科学系大学院と同じく計量分析のトレーニングが手薄なようです。