Structuring the State

Structuring the State: The Formation of Italy and Germany and the Puzzle of Federalism

Structuring the State: The Formation of Italy and Germany and the Puzzle of Federalism

 日本に帰ったときに何人かの友人から勧められたものの、積読となっていた本書をようやく読了。

[問題設定]
 19世紀の後半のほぼ同じ時期に国民国家を形成したにもかかわらず、ドイツは連邦国家(federalist state)を採用し、イタリアは統一国家(unitary state)を採用した。何故か?
[議論]
 既存の研究では、ライカーに典型に見られるように、軍事的に強大な中核国が周辺を征圧できた際には統一国家となり、逆に軍事的勢力が比較的均衡していて制圧できない場合には次善の策として連邦制が採用されると想定されてきた。しかし、こうした議論は歴史的事実と合致しない。ドイツとイタリアを例に取るならば、ビスマルクは初めから連邦制を志向していたとまではいえないし、イタリアでビスマルクと同じ役割を果たしたカブールはむしろ地域国家との外交交渉による連邦制を志向していたのである。
 「連邦制か統一国家か」の鍵を握る変数は、統合対象の地域・都市国家の「行政能力(infrastructural capacity)」にある。中核国は地域・都市国家がその住民をよく統合し、外交交渉の能力を有し、統一後の行政を委任するに足る能力を有している場合にはむしろ連邦制による速やかな統一を目指すのである。ドイツでは国民国家形成前の地域国家の行政能力が比較的早く整備されていたため、地域国家・地域立憲君主の権能を残した形での連邦制による国民国家形成が可能であった。一方、イタリアでは、シチリアに典型に見られるように、外国による長期間の占領がそうした行政能力の発達を妨げ、連邦制を採用するための外交交渉や、統一後の地域行政を委ねるに足るだけの能力を有した地域国家が少なかった。それがゆえに、ピエモンテ南イタリアを制圧せざるを得なかったのである。
 すなわち、国民国家形成において、統一国家はむしろ次善の策であり、連邦制という選択肢が周辺地域国家の行政能力によって制約されていた場合に統一国家となるのである。
[方法]
 ドイツとイタリアの比較歴史分析と、19世紀当時の統計資料に基づいた簡単な計量分析。

[コメント]

  • アメリ政治学会ガブリエル・アーモンド最高博士論文賞を受賞しただけあって、論理展開、方法論、ともにクリアで良く書けた本。
  • 一つ引っかかるとすれば、ドイツの国民国家形成以前の地域国家がプロシアに比肩するほどの行政能力を有し、イタリアの地域国家群ではピエモンテが他を圧倒していたと強調すればするほど、「ライカー仮説が妥当なのでは?」という疑問がもたげてくる。もちろん、著者は「プロシアは軍事的には他を圧倒していた」と主張するのだが。
  • 議論がエレガントなだけに最後に難癖をつけるとすると、本書は "So What?" という疑問にきちんと答えていない。言い換えると、「連邦制か統一制かの選択がどうして重要なのか?」という問いである。国民統合が弱いのに統一国家を形成したイタリアやベルギーでは、「統一制」を採用しても政治・行政が中央集権的に進んだわけではない。むしろ、地域・民族・宗教ごとにバラバラであって。その結果、イタリアでは1970年代に昔の地域国家の区分を繁栄した地方分権制が採用され、ベルギーでは1990年代に結局、連邦制が採用された。「連邦or統一」という区分はそれほど重要?
  • この点を敷衍すると、昔の比較歴史分析はバリントン・ムーアやガーシェンクロンなど、「なぜファシズムが勃興したのか」といった誰もその意義を疑わないような大問題に取り組んできた。そうしたマクロの社会現象のメカニズムを問う大風呂敷の議論が比較歴史分析の特徴だったのに、議論が精緻化し、方法論的に洗練されてきた現在、むしろ、そうした問題設定のレリヴァンスを誰も疑わないような研究を行うのは難しくなってきているのかもしれない。

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