リーディングが山ほどあるというのに・・・
Capitalism, Democracy, and Welfare (Cambridge Studies in Comparative Politics)
- 作者: Torben Iversen
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2005/07/11
- メディア: ペーパーバック
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Varieties of Capitalism: The Institutional Foundations of Comparative Advantage
- 作者: Peter A. Hall,David W. Soskice
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr on Demand
- 発売日: 2001/11/08
- メディア: ハードカバー
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Iversenのこれまでの論考をまとめた本ですが、めっぽう面白いです。議論の筋としては、権力資源動員論が社会的保護(Social Protection)を再分配の観点からとらえるのに対し("Politics against Markets")、資本主義の諸類型論(Variety of Capitalism=VoC)が社会的保護を技能形成のための保険としてのみ捉えているが("Capitalists against Markets")、両者は「ヤヌスの鏡」であるとしてその統合を図っています(といっても保険ととらえる側面が強い)。「保険」というのは、産業や企業特化型技能を形成するには、それが景気循環や産業構造の変化によってリスクにさらされるときにそのリスクから保護されてはじめて経営者も労働者もその技能に投資できるということです(「保険」がないと一般技能(General Skills)を身につけようとする)。で、社会的保護の「保険」機能を媒介に人的資本の蓄積と福祉レジーム(≒福祉国家)を総合して、福祉生産レジームを捉えようというわけです。ただ、それだとHall and Soskice (2001)のように、制度的補完性で結びついたレジームの比較静態論となってしまうので*1、生産福祉レジームの生成に選挙制度のような政治制度と、その発展に戦後の脱工業化(サービス経済化)を組み込んで、動態論に対応しようとしています。で、日本や北ヨーロッパのような特化型技能に依拠した経済がその製造業の国際市場での成功にもかかわらず危機に直面している要因を、交易の難しい国内サービスに求めるわけです。
疑問点は、やっぱり日本の扱いになります。日本は、一般技能に依拠するアングロ・サクソン諸国とも、産業特化型技能(+企業特化型技能)に依拠するヨーロッパ諸国とも異なり、企業特化型技能に依拠した経済という分類になります。そして、企業特化型技能の指標として「平均勤続年数」が使われています。でも、企業特化型技能の蓄積そのものと「平均勤続年数」は違うでしょう。やっぱり、「技能」という要素を計量化して扱うのは難しいですね。
それから、比例代表制という政治制度が再分配的政策を可能にし、その「保険」機能がヨーロッパの産業特化型技能形成を促進した一方、小選挙区制がアングロ・サクソン諸国の一般技能依拠型経済を生んだとすれば、中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への移行は日本の経済を企業特化型技能に依拠したものから一般技能依拠型へ、つまり「アングロ・サクソン型」へという圧力を強めるというインプリケーションを引き出せるでしょうか。選挙制度そのものを比較しても一長一短なので、選挙制度と経済パフォーマンスをからめた議論を展開できれば「小選挙区制度は日本経済の比較優位を掘り崩すので、比例代表制度のほうが優れている」というような議論を展開できるのかもしれません(レイプハルト(2005)も参照)。「比例代表制度では少数意見が反映される」という選挙制度だけを見た議論では多数派にはメリットがわからないので。
あと、技能形成をからめて、特化型技能に依拠する日本・ヨーロッパの経済ではジェンダー格差が大きくなるというIversen や Estevez-Abe の議論ももっと日本で注目されて良いように思います。
民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス)
- 作者: アレンドレイプハルト,Arend Lijphart,粕谷祐子
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2005/06/01
- メディア: 単行本
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