新川敏光(2005)『日本型福祉レジームの発展と変容』

アメリカからアマゾンで注文して、日本に帰って読むのを楽しみにしていた本。第一篇*1は何度か読んでいるので、とりあえず新川先生が90年代の日本の社会保障政策の変容を論じた第二篇を読了。第一篇が権力資源動因論に基づいていたのに対し、第二篇はピアソンの「福祉縮減(Welfare Retrenchment)期の政治は福祉発展期の政治と異なる」というテーゼを採って、基本的に歴史的制度論に基づいて、日本の福祉改革の政治(年金・医療・介護)が論じられている。とりわけ重視されるのがピアソンやケント・ウィーバーが論じた政治的アクターの「非難回避の戦略」。もちろん、新川先生の論考なので極めて鋭い分析が一貫性をもって*2展開されており、「なるほど」と唸らされた。しかし、「非難回避の戦略」として具体的にあげられた五つの戦略が、政策過程の叙述の都合のよいところでアドホックに用いられている気がして、比較研究から因果関係を特定する理論的枠組みとして用いることが可能なのかという疑問を持った。あくまで「非難回避の戦略」は媒介変数であって、この媒介変数に影響を与える政治制度(ある制度下では「非難回避の戦略」の利用が可能となるが、他の制度の下では使えないといような感じ)を特定する必要があるのではないだろうか。
とりあえず、介護保険の政治過程の文脈で政策ネットワーク内のアクターの多元化とその影響が論じられていて、昔自分が大原社研雑誌に書いた論旨と一致していて、ちょっと安心(我ながら権威主義的ですorz)。

*1:元は『日本型福祉の政治経済学』

*2:第二篇の基となった論文は大体読んだことはあったが、本にするにあたって論旨に一貫性を与えるように加筆・修正がなされていたので、買ってよかった。