Scheiner(2006)

長らく「積読」してあった本書を読了。なかなかに面白かった。

Democracy without Competition in Japan: Opposition Failure in a One-Party Dominant State

Democracy without Competition in Japan: Opposition Failure in a One-Party Dominant State

[問題設定]これまでの比較政治学・日本政治研究では自民党一党優位政党制を生み出している要因として中選挙区制が指摘されることが多かった。しかし、中選挙区制小選挙区比例代表並立制に改めた選挙制度改革以後も自民党政権が続いている。政治資金スキャンダルや経済失政などで自民党が極めて不人気であったにもかかわらず、である。日本で野党が政権を奪取できないのは何故なのか?
[議論]野党の挑戦が成功しない要因としてクライアンテリズ(恩顧主義)、中央集権的財政システム、恩顧主義の受益者の制度的保護の三つが指摘できる。まず、恩顧主義と中央集権的財政システムが結びつくと、地方政治は中央から地方への利益誘導へのパイプにアクセスできるか否かが焦点となる。その結果、地方レベルからのボトムアップ型の政党の組織化が難しくなり、野党は地方に基盤を形成できない。地方議員は国政選挙での競争力のある候補者のプールであるがゆえ、野党は強力な候補者を小選挙区に擁立することが難しくなる。さらに、定数不均衡が、恩顧主義的な中央―地方関係に依拠し、自民党が圧倒的に強い農村部と、与党と野党が競合する都市部という、「二大並行政党制」を生み出し、都市部の選挙区や比例代表で負けても自民党が悠々と政権を維持できる仕組みとなっているのである。そして、地方からのボトムアップ型の政党の成功が難しいゆえ、野党の再編はどうしても「上から」の組織化とならざるを得ず、地方組織の統合(保守系議員の後援会組織と革新系の労組など)や中央での政策の統一に困難を抱え込まざるを得ない。以上の理由から、自民党は国民から不人気であるにもかかわらず、日本は民主主義のあるべき姿である「競争的民主制」とはなっていないのである。
上の議論を、世論調査データ、選挙区レベルデータ、政治家・政党職員へのインタビュー、他のかつての一党優位政党制諸国(スウェーデン、ブラジル、メキシコ、オーストリアイスラエル、イタリア、など)との比較を通して実証。
[コメント]

  • 自民党が下野した1993年以前と以後とで、日本の一党優位政党制は同じものなのか?93年以前は中選挙区制のもとでの票割の難しさから野党第一党であった社会党が十分な候補者を擁立できず、選挙の開票前から自民党が政権を維持することは明らかであった。この「55年体制」は制度的な野党の失敗の事例といえよう。しかし、小選挙区比例代表並立制下では一応、ほとんどの小選挙区自民党野党第一党が候補者を擁立し競争をしており、国民が望んだならば政権交代は可能であったはずである。この状況を指して「一党優位政党制における野党の失敗(Opposition Failure in a One-Party Dominant System)」と呼べるのだろうか。次の総選挙で自民党が負けたらScheiner はどう言い訳するのか。
  • 一方的にアメリ政治学を賞賛し、日本政治学を卑下するつもりは毛頭ないが、クライアンテリズムが栄える日本に住む日本人研究者が政治的恩顧主義論をやると先行研究の検討と理論の緻密な紹介に終わってしまうのに対し、アメリカ人研究者だと外国の事例にもかかわらず(そうであるが故?)、調査データやインタビューを駆使してここまでやってしまうという点に彼我の学問の差を感じてしまう。ライプハルトがオランダの事例から「多極共存民主制」を打ち出したように、日本人研究者が日本の恩顧主義の事例から比較政治理論一般への貢献をしても良かったのにと思う自分はナショナリスト??

政治的恩顧主義論(クライエンテリズム)―日本政治研究序説

政治的恩顧主義論(クライエンテリズム)―日本政治研究序説