Schmidt(2002)

The Futures of European Capitalism

The Futures of European Capitalism

[問題設定]グローバル化とヨーロッパ化はEU加盟各国にどのような影響を与えるか。
[議論]結論からいうと、グローバル化とヨーロッパ化は多大な経済的、政治的、社会的変革圧力を生んでいるが、一つの形態への収斂は生んではいない。経済政策形成の次元では、ヨーロッパ統合は経済政策における各国の自律性に制約となっているが、各国政府はいまだに狭まった選択肢なかで選択を行っているうえ、国家の上位に位置する組織に権限を委譲し、そこでの影響力を確保することで、なんとか国家の規制力を維持している。グローバル化・ヨーロッパ化への経済的対応の実際の面では、各国はそれぞれの国の資本主義の類型をいまだに維持している。シュミットはヨーロッパ諸国の資本主義を自由型、管理型、国家型の三類型に分類し、それぞれの類型を代表するイギリス、ドイツ、フランスのケーススタディを行っているが、イギリスは自由市場型経済の理念系に近づきつつあり、ドイツは競争の側面を近年数多く取り入れつつも、管理型市場経済の主要な面を維持しており、フランスはその政治・経済を大規模に変革しつつも、いまだ国家が大きな役割を担っている。グローバル化・ヨーロッパ化への経済的適応を巡る政治の側面では、既存の研究はその役割を軽視してきたが、「言説」が改革に対するコンセンサス形成に重要な役割を担っており、言説に注目すれば改革が「なぜ」、「いつ」起こるのか理解することができる。イギリスやフランスのような単一のアクターに権限の集中する政治システムでは、言説は公衆に対して改革を正当化するコミュニケーション機能で重要となる。一方、ドイツのような複数のアクターが競合する政治システムでは、言説は政策過程の調整に重要な役割を果たす。そして、新自由主義的改革の浸透度が各国で異なるものとなった理由は言説政治の違いに由来するのである。すなわち、イギリスでは保守党政権が公衆へのコミュニケーションの領域で急進的な改革を正当化するのに成功したのに対し、フランスでは少なくとも90年代まで左翼も右翼も新自由主義的改革の必要性も正統性も公衆に示すことができなかった。ドイツは政策過程に参画するアクターを調整する領域で新自由主義改革を正当化することができなかった。この言説政治の違いが各国の経済政策の違いを一定程度説明するといえよう。

[コメント]

  • この夏に帰国した際に参加した比較政治学会で「言説政治論」が流行っていたので、代表的文献として読んでみたのですが・・・。
  • まず、シュミットの枠組みにおいてすら、言説は媒介変数に過ぎない。"single-actor political system" か、"multiple-actor political system"か、が言説が政治において果たす役割を決め、新自由主義的政策の受容の速さ・深さを説明するのであれば、独立変数は政治制度となる。しかも、シュミットは"political system"の変数をコントロールした例としてイギリスとフランスの比較を行っているが(どちらも"single-actor political system")、多くの比較政治学者は両国を「単一アクターに権力の集中する政治システム」とくくるのには抵抗を感じるだろう。フランス政治には詳しくないが、すくなともコハビタシオーン*1の下では"multiple-actor political system"となるのでは?そうなると、新自由主義政策の受容の速度(英→仏→独)は政治システムにおける権力の集中度合い(英→仏→独)と一緒ということで、政治システムが独立変数となる。言説の出番はある?
  • しかも、経済的適応の実践の章では、英・仏・独のそれぞれを資本主義三類型の代表としているが、この資本主義の型が言説のあり方と経済調整のあり方の双方を規定している可能性もある(そうなると、言説政治と経済調整の間の関係は「みせかけの相関」)。シュミットは政治制度と言説政治との間の関係した検討していないが、Hall(1986)が示したように、労使関係のあり方や国家-社会関係のあり方が経済政策をめぐる「アイデアの政治」を規定する可能性も高い。そうであれば、資本主義類型、政治制度、言説政治のそれぞれが従属変数を決める可能性のある、不定(indeterminate)なリサーチデザインというこになってしまう。

Governing the Economy: The Politics of State Intervention in Britain and France (Europe and the International Order)

Governing the Economy: The Politics of State Intervention in Britain and France (Europe and the International Order)

*1:選挙で選ばれる大統領と議会で選ばれる首相の党派が違う状態。