積み立て方式?

毎日新聞Web版で「勝間和代のクロストーク」という勝間さんの政策に対する賛否を問うという連載をやっています。
http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/index.html?link_id=PP00202
今回のテーマは「公的年金の積立方式化」。90年代後半に日経新聞でよく議論されていたのを記憶していますが、正直「いまさら?」感を禁じ得ません。実際問題、賦課方式から積立方式への移行には「二重の負担問題」を生じざるを得ず、団塊世代の引退が始まったいまとなっては政策としての実行可能性がないからです。というのも、賦課方式のため現役時代に積み立てできなかった世代は現役世代が年金保険料で扶養せざるを得ず、いまの現役世代は引退世代の扶養と自らの世代のための貯蓄を行わなければならないので、実際問題負担が大きすぎて無理だという話です。スウェーデンのようにマクロで見た場合は賦課方式だけれども、それぞれの世代の受取額は現役時代の拠出と経済成長に比例させる「幻想上の拠出立て」にしたり、年金拠出金の数パーセントを積立方式にして引退したあと受け取れるようにするといった部分的な変更は可能かもしれませんが、「賦課方式から積立方式へ」といった年金制度の大きな変更は不可能に近いでしょう。また、年金の大規模な改革を議論するときはマクロの「賦課方式⇔積立方式」とミクロの「給付建て⇔拠出建て」を区別する必要があり、「自分たちの努力の結果が将来につながっているという実感」をもてるようにする制度改革の話はミクロの話で、マクロの「賦課方式⇔積立方式」の議論とは切り離せるというのがスウェーデンやイタリアの年金改革の事例の教訓でしょう。二期目のブッシュ政権公的年金の一部に積立方式を導入するという動きがあったわけですが(結局、強い反対で潰された)、アメリカの新聞でよく見るのが「あの時、公的年金を株式市場の手に委ねていたらどうなっていたのか」という議論です。積立方式は中期の経済変動に脆弱というのも欠点でしょう。
あと、マクロ経済学には疎くてよくわからないわけですが、賦課方式だろうが積立方式だろうが、現役世代が生産し、引退世代と現役世代が消費するという構図自体は不変なわけで、積立方式でも引退世代は現役時代に積み立てたストックをフローに変えて口を糊する以上、少子高齢化に積立方式が助けとなる理由がわかりません。年間に生産される財やサービスは保存できないので、いくら金融資産を溜め込んでも生産人口が極端に減ってしまえば積み立てた年金資産も財やサービス(肉や魚や床屋さん)と交換できないわけですから。おそらく、少子高齢化の下では、賦課方式では現役世代が生産物を引退世代に上納せざるを得ず馬鹿を見、積立方式では引退世代は積み立てた金融資産もフローと交換できず宝の持ち腐れとなって馬鹿を見る、ということなのかなと想像します。