訃報
田村さんのブログ経由で東大大学院総合文化研究科の柴田寿子先生が亡くなられたことを知りました。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0205/TKY200902050118.html
先生には、会社を辞めて*1大学院を受験した際、その相談のために一橋の指導教官の紹介で初めてお会いしました。とてもお洒落な方で驚いたのですが、先生の研究室で淹れて頂いたネスカフェをすすりながら先生の院生体験や思想史論を伺ったのでした。印象に残っている言葉は、
- 「ギリシャ古代など、古い思想家をやるとそれ以後の思想家は誰でもできるけど、新しい思想家をやるとそれ以前の思想家には遡れないので、結局、現代思想の追っかけしか出来なくなってしまう。」
- 「スピノザっていうのは普段は忘れられた思想家なんだけれど、数十年に一回ブームがやってきて、私はたまたまそのとき公募に応募できたのよ。」
先生のスタンスとしては、そのときどきの流行に流されるだけでは地に足のついた研究などできない、ということでしょうか。そして、自分もそれなりに過去の研究を読んできて柴田先生の仰ったことは本当に正しいと実感します。革新的な研究というのは常に、その当時の流行の逆張りをし、その流行以前の学問にも目を向けそこから学ぼうとした研究です。実際には流行から離れた研究は評価され難く、それを行うのには大きな勇気が必要なのですが、柴田先生はそれを実践されていた方のように思います。
その後も、修士時代に柴田先生の駒場の大学院・学部共修のゼミに交ぜていただいたり、田中浩先生の研究会に参加させていただいたり、お世話になりました。自分の研究の方向性が変わったので直接ご指導いただくようなことはなかったのですが、日本の保育政策と高齢者介護政策について書いた論文をはじめて出版した際、先生も子育てしながら大学院生活を送っていたときに保育所の問題で苦労したうえ、最近は旦那さんとご自分のご両親の介護を体験されたらしく、暖かい言葉を掛けてくださいました。「補足性の原理」についての論文を寄稿されていたように福祉国家論の世界にもお詳しく、いつの日か単著を出版できれば柴田先生にお持ちし、感想をお聞きしたかったです。
53歳とまだお若かっただけに非常に残念です。ご冥福をお祈り申し上げます。
- 作者: 柴田寿子
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*1:実際は辞める半年前。