ESPAnet Annual Conference @ Urbino

木曜日から土曜日まで、ヨーロッパ社会政策学会年次研究大会がイタリアはアドリア海側の学園都市、ウルビーノで開かれてたので行ってきました。
http://www.espanet-italia.net/conference2009/
フィレンツェからは車で三時間ほどですが、電車で行ったので乗り換えに時間を取られ、ドア・トゥー・ドアで五時間ほどもかかってしまいました。大学で有名なのですが、同時に観光名所でもあります。山の中腹に山城のような形で街が作られていて、その周りを城壁が囲むという、典型的なイタリア中世小都市といった趣です。

木曜日の共通論題は午前中だったのでスキップし、午後のパネルからの参加でした。各パネルの印象としては、それぞれの国の社会政策の特徴と最近の変化を記述した研究が多い一方、そうした事象を何か概念的に整理して因果関係で説明しようという報告は少ないように思いました。一緒に参加したフランカ先生と「みんな興味深い事実を提示しているのに、アーギュメントがないんだよね」と辛口のコメント。
やはり最近の社会政策の最重要トピックである、家族政策、ケア政策、ジェンダー平等政策といったパネルは人気がありました。

↑の左は博士論文の論敵であるPfau-Effinger教授で、残念ながらお話しする機会は今回はありませんでした。

面白かった論文は
Mandel Hadas ( Tel-Aviv University, IL)
Family Policy and Gender inequality across classes
http://www.espanet-italia.net/conference2009/paper/20A%20-%20Hadas%20Mandel.pdf
この論文ではジェンダー間賃金格差*1の大きさが実は階層間によって異なることを指摘し、LISデータを使った階層モデルで、スカンディナビア諸国では低学歴層ではジェンダー間賃金格差が少ない一方、高学歴層ではジェンダー間賃金格差が自由主義ジームはもとより大陸ヨーロッパ諸国よりも大きいことを説明しようとしています。仮説としては、北欧諸国は寛大な出産・育児休暇などが整っているうえ、公共サービスセクターでは男女間の賃金格差が抑制されているため、公共セクターで働くことの多い低学歴層女性は出産後も仕事を続けられるうえ、その仕事の賃金水準は同じ社会階層の男性と遜色ないものとなるものです。一方、高学歴層女性は民間セクターで働くことが多く、企業に負担が求められる寛大な出産・育児休暇制度などの社会政策が高学歴女性に対する統計的差別(statistical discrimination)を助長し、結果として高学歴層の内部では男女間の賃金格差が大きくなるというものです。LISデータの階層モデルは基本的に仮説を支持しているようでした。興味深いのはこの論文の含意で、北欧諸国では低学歴女性は寛大な福祉国家から便益を得られる一方、高学歴女性はシステム的に不利益を被るようになっているということになります。なので、高学歴女性は新自由主義労働市場改革を求めるヨーロッパの意味での「リベラル」と連携するインセンティブがあるということでしょうか。
この報告はどうもスカンディナビア出身フェミニスト社会政策学者の気分を害したようで、報告に対してかなり批判的なコメントが殺到していました。EUIのフィンランド人の友人に話しても、「それでも私は自由主義ジームよりもフィンランドに住むほうが良いわ」と言っていました。

あと、
Vos Allison E. (University of North Carolina, USA)
Falling Fertility Rates: New Challenges to the Welfare State
http://www.espanet-italia.net/conference2009/paper2/20B-Vos.pdf
も面白かったです。筆者はノースカロライナのジョン・スティーブンスのお弟子さんなのですが、アングロサクソン諸国と北欧諸国で出生率が高いのに対し大陸ヨーロッパでは低出生率が続いているのはなぜかという問いに、一九九〇年から一九九九年の時系列・国家間比較データを計量分析して答えるという、いかにもジョン・スティーブンス&エヴリン・フーバー的なペーパーでした。モデルがキッチンシンク的なのと、Pooled OLSしかやっていないという点で結果の信頼性に問題ありそうですが、労働市場のインサイダー・アウトサイダー格差が小さいアングロサクソン諸国と子育て支援施策が充実している北欧諸国で出生率が高くなり、男性中核労働者の雇用保障が充実している大陸ヨーロッパで出生率が低くなるというのは納得行く話しです。出産・子育ての機会費用の議論を使って、ミクロレベルの戦略行動に基づいたモデルを作れば面白そうではあります。

ラウンドテーブルではヨーロッパ社会政策学会の大物を集めて「どうしたら社会政策の革新は可能か、現在の金融危機はそうした革新に貢献するのか、それともそれを押しとどめる方向に働くのか」といった話しをしていました。イマイチ、面白くはなかったですけど。
パネルの一人、ジュリアーノ・ボノーリ教授とは氏の論文のディスカッサントとして昨年にイタリアでお会いしましたが、僕のことを覚えていてくれ、「博士論文が出来上がったら送って。」と言われました。チャンスを逃す手はないので、出来上がり次第送る予定です。

スウェーデン将来問題研究所でお世話になった所長・ヨアキム・パルメ教授はウプサラの政治学の教授ポストを取ったはずなのですが、どうやら最初はパートタイムでウプサラで教えるようです。

初日のレセプションはバーのアペリティーボ、二日目はサンタ・キアラ教会のバルコニーを貸しきってディナーを楽しみました。ディナーでもきちんとしたファーストやセカンドがサーブされず、なんだかおつまみの連続みたいな感じでしたが、丸ごとモッツァレラチーズやチーズフライ、魚のグリルなどをワインと共に美味しく頂きました。
ディナー後は二次会、三次会と引っ張りまわされ、結局宿に戻ったのは夜中の三時。それでも次の日、八時に起きた自分はエライと思う。

さて、本ブログにたびたび登場するフランカ先生とのツーショット。僕の背が低いのではなく(確かに平均以下ですが・・・)、彼女が高いのです。これまで背の高さに触れられるのには辟易しているだろうと遠慮して聞きませんでしたが、学会で周りが遠慮なく聞くので判明したところでは、188センチ(!)とのこと。それでも、オランダでは目立って高いわけではないのだとか。オランダ人はどれだけ背が高いんだよ、という話しです。

*1:学歴や年齢といった個人属性が同じ男女間での賃金格差のこと。