ワークショップ

現在滞在中の「ストックホルム未来研究所」では、今回は格下げされて、研究所の図書室に机が与えられています。そして、水曜日に所長のヨアキム・パルメ教授から「明日から二日間、ここでワークショップがあるんだけど、出る?」と聞かれました。ワークショップの参加者が多いので、図書室の会議室の仕切りをぶち抜いて会議をやるらしく、参加する以外に行き場がないので参加することに。テーマは「ヨーロッパ統合と社会・医療政策」ということで、自分のテーマと当たらずとも遠からず。そんなこんなでオブザーバー参加してきました。
ワークショップは現在、奥さん*1が未来研究所でポスドクをやっている関係でストックホルム滞在中のフランス福祉国家研究の大御所、ブルーノ・パリア(SciencePo, Paris)教授他と、未来研究所の共催という体裁だったため、参加者もフランス側半分、北欧側半分という感じでした。そのため、思わぬところで北欧人とフランス人の文化的差異を発見してしまいました。まず、ルール・権威に対する姿勢の違い。北欧人は司会者が「始めますので席について下さい」と言えば素直に従うのですが、フランス人は知らぬ振りで立ったままお喋りを続けます。また、司会者が「時間ですので質問はここで切ります」と強く言っても、フランス人は「短く済ますから!」と我を押して発言をし始め、しかもコメントが長い・・・。北欧側のコメントは端的なものが多いのですが、フランス側のコメントはフランス語訛りで自分の知識をひけらかすような長いものが多く、ちょっと辟易してしまました。時間感覚もかなり違っていて、パルメ教授が「では休憩を取りますが、五分で再開しますね」と言うと、パリア教授が「まあまあ、そうスウェーデン式に厳格にやらなくても。ヨーロッパ式にやろうよ」という始末。おそらくラテンとゲルマンで文化が違うのでしょうが、よくこんなに違う人たちがヨーロッパ統合のような企てをやっているものです。
さて、ワークショップの内容はどうだったかというと、EU統合に直接関心を持たない外野としてはいまいちピンと来ない研究ばかりでした。どれもEUレベルの立法・司法・行政 が&に 国民国家レベルの社会政策・医療政策 に&が どう影響を与えるかというものだったのですが、リサーチクエッションが面白い形に形成されていないため、どれも焦点のぼやけた分析が目立ちました。EUレベルの変数は国レベルではコンスタントなので、「何故、国および地域レベルでEU化の影響が異なるのか」というのが理論的には面白い問題設定となるのだと思うわけですが、その場合は説明変数が国およぼ地域レベルの文脈や制度の違いとなってしまい、「EU化がどのように影響しているのか」という彼らの問題関心には合わないのでしょう。勢い、問題設定が「EU化がフランスに(あるいは北欧に)どのように影響しているか」というものになってしまい、EUレベルに焦点の当てた記述的な分析となっていました。パリア教授はEUレベルと国家レベルの相互作用に着目した「インタラクティブアプローチ」を何度も強調していましたが、それがどれほど新しいものか、いまだ不明です。
懇親会はストックホルムのお洒落なレストランで行われましたが、ここでも北欧とフランスの文化の違いを発見。フランス人はフランス人で固まってこちらが眉をひそめるほど大声で盛り上がっていました。一方、北欧側は大人しく、お酒を飲んでも朴訥とした感じは変わらず。でも、やはり飲む量は半端でないようで、レストランのコースがサーブした標準的なもので、初めにシャンパン(一杯)、魚料理で白ワイン(一杯)、肉料理で赤ワイン(一杯)、デザートにポートワイン(一杯)と計四杯。おそらく、ディナーの後にさらにリキュールかウイスキーでも飲むのでしょうが、「黙ってとにかく飲む」というのがスウェーデンスタイルのようです。

*1:奥さんはパリ第一大学で博士号とりたての若手研究者でスウェーデンの社会的ケア政策を研究テーマとしています。前回、研究所に滞在したときにインタビューしましたが、美人で頭が切れて、多分、将来はヨーロッパ社会政策学界で有名になるでしょう。今は双子の女の子を出産したばかりで育児休暇中です。